​DV防止法の保護命令と離婚|橋本あれふ法律事務所

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DV防止法の保護命令と離婚

Question
 同居の夫から暴力を受けています。できるだけ早く離婚して縁を切りたいのですが,特別な法的措置を講じることはできないでしょうか。

DV防止法

裁判所による「保護命令」

 いわゆるDV防止法,正式名称「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(以下「DV防止法」といいます。)による「保護命令」(同法10条)を申し立てることが考えられます。

 ごく簡単にいえば,裁判所から下記の「保護命令」を出してもらい,DV配偶者との接触を強制的に断つという方法です。

 ただし,裁判所に申し立てた後,申立人及び相手方を審尋して「保護命令」が出されるまで1〜2週間程度はかかるため,その間は知人宅や一時避難施設(DVシェルター)に泊めてもらうなどして身を隠しておく必要はあるでしょう。

 緊急性の高い事件類型であるため,迅速に手続が流れてはいきますが(同法13条),上記期間程度はみておかなければなりません。

警察への通報

 警察官には,配偶者からの暴力(これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動を含む)が行われたと認めたときは,被害者保護や職務質問等の「必要な措置」をとるべき努力義務が定められているため(DV防止法8条),事実上これらの措置を期待することができます。

 ただし,裁判所の「保護命令」と異なり,直接的な法的効果が生じるわけではありません。

「保護命令」の要件

「保護命令」が発令されるためには,次の要件が必要です。

過去にDV行為があったこと

 まずは,現に次のいずれかのDV行為があったことが要求されます。現にDV行為があったことを立証できなければなりません。

  • 配偶者から「身体に対する暴力」を受けたこと

  • 配偶者から「生命等に対する脅迫」を受けたこと

 「身体に対する暴力」とは,身体に対する不法な攻撃であって生命または身体に危害を及ぼすものと定義されています(DV防止法1条1項)。
 具体的には,暴行罪や傷害罪に該当するような有形力の行使がこれにあたります。
 また,有形力の行使がなくとも,心的外傷を与える言動によりPTSD等の精神障害に至った場合にも「身体に対する暴力」に当たり得るとされています。

 「生命等に対する脅迫」とは,被害者の生命または身体に対して害を加える旨を告知してする脅迫と定義されています(DV防止法1条2項)。
 具体的な暴力行為がない(又は立証できない)場合に問題となる要件ですが,「殴るぞ。」「殺すぞ。」というように,生命または身体に対して害を加える旨を伝えていたことが要求されます。

将来におけるDVのおそれがあること

 次に,将来的にDV行為が繰り返されるおそれがあることが求められます。
 すなわち,「配偶者からの身体に対する暴力により,その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいこと」が必要です(DV防止法10条1項)。

 ここでは「暴力」による危害のおそれが要件とされており,脅迫による危害のおそれでは足りません。
 しかし,例えば,別居後に夫が妻の別居先まで押しかけて「出てこないと,どうなるか知らんぞ。」と怒鳴ったような場合には,暴力によって重大な危害を受けるおそれがあると認められる可能性が高いといえるでしょう。

「保護命令」の内容

夫婦間の禁止等行為(DV防止法10条1項,2項)

  1. 別居の場合は,6ヶ月間のつきまとい等禁止
  2. 同居の場合は,2ヶ月間の退去
  3. 面会要求の禁止
  4. 行動を監視していると思わせる行為の禁止
  5. 著しく粗野・乱暴な言動の禁止
  6. 無言電話,連続メール・FAXの禁止
  7. 夜間連絡の禁止
  8. 不快・嫌悪を催させるような物の送付等禁止
  9. 性的羞恥心を感じさせる行為等の禁止

未成年の子との間の禁止等行為(同条3項)

 DV被害者が未成年の子と同居しており,DV配偶者が子を連れ戻すと疑うに足りる言動を行っている場合には,子に対する近接つきまとい行為の禁止命令が発せられます。

「保護命令」の効果

罰則

 保護命令に違反して上記①〜⑨の行為を行った者は,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます。

警視総監又は警察本部長への通知

 裁判所が「保護命令」を発したときは,裁判所書記官から,警視総監又は道府県警察本部長へ通知がなされます。

離婚との関係

離婚調停・裁判での「保護命令」の利用

 DV防止法は,あくまで配偶者からの暴力の防止を目的とする法律であり,「保護命令」も離婚の前提として予定されている手続ではありません。

 ところが,近時,「保護命令」の審理に迅速性が要求され,裁判所も万が一の事態が起きるのをおそれて比較的緩やかな心証で「保護命令」を発することを利用して,離婚協議・調停を有利に進めようとする者がこれを悪用しているとの指摘がなされています。
 もちろん,後続の離婚調停・裁判では,DV防止法の「保護命令」が発せられたことが,離婚原因,慰謝料算定,親権者決定の一事情として考慮される可能性はあります。しかし,「保護命令」を発した裁判所の心証がそのまま離婚調停・裁判における裁判所の心証であるとは限らないことには,十分留意しておくべきでしょう。

再度の申立て

 離婚調停・裁判が長期化すると2ヶ月・6ヶ月という退去や禁止期間が経過してしまいます。その場合は,再度「保護命令」の申立てをすることができます。

 ただし,再度の申立て時点における「更なる身体に対する暴力によりその生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きい」ことという要件が必要になるため,1回目の接近禁止期間中に何事もなければ,再度の申立ては困難です。