保育園・幼稚園の人事労務
保育人材を確保するために
待機児童問題に現れているように,保育需要は近年増加しています。
その一方で,保育士の大量離職と離職率の高さも注目されるようになってきました。
平成25年から26年にかけての厚生労働省の統計分析によると,常勤保育士320,196人に対して離職者が32,823人であり,離職率は10.3%(公立保育園は12.0%)でした。
時期 | 内容 | 原因 | |
---|---|---|---|
東京都中央区の保育園 | 2019年3月 | 保育士18人中13人が順次離職 | 待遇悪化と長時間労働 |
浜松市の保育園 | 2019年12月 | 保育士等18人が退職届提出 | ハラスメント |
これからの時代は「労働環境が良くない保育園・幼稚園は,保育士が集まらず離れていく」流れになっていくと思われます。
保育所等の安定的な運営を図るためには,保育士が働きやすいと感じられるような職場環境を整え,保育人材が定着するような労務管理をすることが重要です。
人事労務についての Q & A
試用期間
Question
試用期間中の職員がいるのですが,素行や能力面で問題を感じています。どのように対応すればよいでしょうか?
試用期間といえども労働契約は成立しています。そのため,解雇と同様に,客観的合理性と社会的相当性がなければ本採用を拒否できません(労働契約法16条)。
あらかじめ就業規則に本採用拒否事由を定めておくとともに,その職員の問題点を解消するための教育指導(できれば書面等も交付することが好ましい)を怠たらないことも重要なポイントとなります。
労働時間と残業
Question
運動会等の行事前は,職員が終業時間後も残業をしなければなりません。職員にとっても負担ですし,残業代コストも馬鹿になりません。どのような対応をしたらよいでしょうか?
①行事の前から計画的に準備を進めておくように指導しましょう。
②行事直前には極力残業しないよう指導し,場合によっては残業を許可制にし,所定の残業届を準備しておくのも有効な手段です。
③毎年,どうしても残業を避けられない場合には,1日8時間,週40時間を超えて労働時間を設定できる「変形労働時間制」の導入運用を検討しましょう。
メンタルヘルス
Question
欠勤遅刻や業務上のミスが目立つ保育士がいます。子供に対する接し方も,以前より雑になったような気がします。どのような対応をすればよいでしょうか?
保育の現場では,子どもの安全管理のために十分な注意を払わなければなりません。保育職員がメンタルヘルス上の問題を抱えると,注意力散漫になるなどして,保育の安全が脅かされる恐れが生じます。園医に相談のうえ,一度カウンセリングや診察を受けるよう勧めましょう(受診勧告・命令)。診断の結果,何らかの疾患が報告されたのであれば,休職も検討すべきかもしれません(休職勧告・命令)。
受診・休職の手続をスムーズに進められるように,就業規則の条項を整備しておきましょう。
職印の妊娠・出産・育児
Question
妊娠中の職員がいます。どのようなことに気を付ければよいでしょうか?
① 妊娠中・出産前後・育児期間の各段階で,種々のな法的制度(産休・育休等)が用意されています。まずは,運営者自身が制度への理解を深めましょう。
② また,職員間で制度の利用に対する嫌がらせがあれば(例えば,年長保育士が「この繁忙期に産休請求するなんて常識がない」と告げる等),園としても使用者責任を問われる可能性があります。そのため,職員間でマタハラ・パワハラ行為が起きないように,職員全員に対して,各制度について周知徹底しましょう。
退職
Question
ある保育士は,事あるごとに園長や他の保育士と対立しており,他の保育士たちからは頻繁に不満の声を聞いています。保育士間での連携がうまくいかなければ,保育園としての機能を十分に果たすことができないので,当該保育士には退職してほしいと考えています。どのようにすればよいでしょうか?
雇用契約の解消は,使用者からの一方的意思表示で解消する場合(解雇)と,双方の合意に基づいて終了させる場合(合意退職)があります。
解雇するためには解雇原因に客観的合理性と社会的相当性が認められなければならず(労働契約法16条),平均賃金30日分の解雇予告手当を支払わなければなりません。そのため,第1次的には合意退職を目指すべきです。
合意退職できるよう,十分に説明義務を果たしたうえで,所定の退職届を提出してもらえるように準備しておきましょう。