​業務委託先・派遣社員のミス|橋本あれふ法律事務所

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業務委託先・派遣社員のミス

 多くのホテルや旅館では,ホテル以外の関係者に業務を委託しています。
 例えば,外注業者(委託業務先),派遣社員などです。

 これらの者がミスをしたことによって宿泊客に損害を与えてしまった場合,ホテルが損害賠償責任を負うのでしょうか?いくつかのケースをご紹介して説明します。

ランドリーサービスで,クリーニング業者がミスした場合

Question
 当ホテルでは,ランドリーサービスとして,お客様の洗濯物をお預かりし,クリーニング業者へ外注に出しています。先日,クリーニング業者の不手際により,お客様から預かったドレスに大きなしみがついてしまいました。
 当ホテルが,全額の賠償責任を負うのでしょうか?

原則として損害賠償を負います

 宿泊客は,ホテルが責任をもってクリーニングすると信頼して洗濯物を預けるのが通常の意思であると考えられます。このような意思を合理的に解釈すると,宿泊客とホテルとの間で,「宿泊客が衣類をホテルに預け,ホテルが衣類を洗濯して返還する。」という請負契約が成立していると見ることができるでしょう。ホテルがクリーニング業者に外注に出すことは,いわゆる下請けに出すものと評価されます。

 請負契約において,仕事の目的物に「瑕疵」(いわゆる欠陥)がある場合には,受注者は注文者に対して損害賠償をしなければなりません。建物建築の請負契約において,受注者が欠陥住宅の損害賠償責任を負うのと同様です。

 このケースにおいては,衣類にしみがついた状態というのは「瑕疵」に該当するのは間違いないでしょう。そうすると,ホテルは,宿泊客に対して,それによって宿泊客が被った損害(着用不可能であれば,当該衣服相当額になります。)を賠償しなければなりません。もっとも,ホテルとクリーニング業者との間でも請負契約(下請け契約)が成立していますから,ホテルはクリーニング業者に対して損害賠償を請求することができます。

 ホテルとしては,①宿泊客に損害を賠償し,②同額をクリーニング業者に請求することになるでしょう。

ホテルが単なる取次ぎをしていた場合

 宿泊客から洗濯物を預かるに際して,「ホテルはクリーニング業者への取次ぎをするにすぎず,ホテルは損害賠償責任を負わない。」ことを,書面等により明らかにしていたとします。この場合,請負契約は宿泊客とクリーニング業者との間で成立することになるので,ホテルは損害賠償責任を負わないと考えられます。

ホテルで業務委託先がミスをした場合

ホテル内に出店しているマッサージ店がミスした場合

Question
 当ホテルでは,外部のマッサージ師との間で出店契約を締結し,ホテル大浴場の隣にマッサージ店を出店してもらっています。先日,このマッサージ店で施術ミスがあり,お客様が後遺症の残る傷害を負ってしまいました。
 お客様は,ホテルのサービスなのだからホテルが責任を取ってほしいと仰っています。ホテルが損害賠償責任を負うのでしょうか?

原則としてホテルは責任を負わない

 一般に,マッサージ師と客との間で行われるマッサージ行為は,マッサージ施術契約という準委任契約に基づいて行われるものだと解されます。

 ホテルが宿泊客から直接連絡を受けてマッサージ師を派遣するような場合には,ホテルの行為が介在するため,上記のクリーニング事例と同様にホテルと宿泊客との間でマッサージ施術契約が成立することになるでしょう。この場合には,ホテルが契約当事者として債務不履行責任を負わなければなりません。

 しかしながら,本ケースのように出店型でありホテルの行為が介在しない場合には,宿泊客とマッサージ師との間で直接契約が成立すると考えられます。そのため,契約当事者として債務不履行責任を負うのはマッサージ師であり,ホテルではありません。

名板貸し責任を負う場合がある

 本ケースに類似した事案で,「名板貸し責任」(会社法9条)の類推適用という法律構成によって,ホテルの責任を認めた判例(大阪高裁平成28年10月13日判決)があります。

 「名板貸し責任」(会社法9条)の類推適用とは,次の要件を満たす場合には,外観どおり外観作出者にも責任を負わせるという法理です。

  1. 営業主体を誤信させるような外観が作出されていること
  2. そのことにつき外観を作出した者に帰責性があること
  3. 現に第三者が営業主体を誤信したこと

 本ケースでいえば,宿泊客をして,ホテルがマッサージ店の営業主体であると誤信させるような外観があった場合には,ホテルがマッサージ店の負う責任を負うことになります。

※大阪高裁平成28年10月13日判決
【事案の概要】
 原告(X)は,被告(Y)の経営する温泉付きホテルにマッサージ師(A)が出店しているマッサージ店において,マッサージ施術を受けた。
 Xは,Aの過失により頸椎症性脊髄症を発症し四肢不全麻痺の後遺障害を負ったとして損害賠償を求めた。
【判旨】
裁判所は,以下の点を指摘して,Yの名板貸し責任を認めた。
① 本件マッサージ店の入口及び周囲に,Aの屋号の看板や表記がなかったこと
② 「マッサージコーナー」「卓球コーナー」の記載がある館内案内図にも,ホテルの直営店舗化テナントかの区別は表示されていなかったこと
③ 本件マッサージ店の入口付近には,「ご精算はお部屋番号とサインでOK」との貼り紙があったこと
④ 本件マッサージ店には,ホテルのロゴが記載されたタオルが常備されていたこと