遺言作成について
遺言作成の意義
遺言作成を考えておられる方は,大きく分けると2タイプに分類することができます。
- 公平型の遺言の作成を考えている方
- 不公平型の遺言の作成を考えている方
まずは,それぞれの特徴を見ていきましょう。
公平型の遺言
これは,「各相続人に,公平に遺産を分けたい。」という意向を持つ方です。
厳密に公平に分けられるかどうかはともかくとして,基本的にはこのような方針で遺言を作成しようとする方が多数派です。
この場合,遺言を作成しておくことで,次のようなメリットが得れます。
財産を承継させる相続人を指定できる。
相続手続きをスムーズに行うことができる。
実質面でのメリットです。
例えば,「自宅は妻に,A銀行預金は長女に,B銀行預金は次男に,株式を長男に相続させる。」というように,各財産の承継先をあらかじめ指定しておくことができます。遺言がなければ,相続人全員で一から遺産分割協議をしなければなりません。
形式面でのメリットですが,これが意外と大切です。
被相続人が死亡すると,銀行口座凍結されます。遺言がなければ,被相続人の出生~死亡までのすべての戸籍,相続人全員の実印・印鑑証明書を集めて銀行に提出しなければなりません。土地建物についても,同様にしなければ登記名義を変更することができません。しかし,遺言があればそのような手間は必要ありません。
また,相続人としては,遺言に付された遺産目録を見ることで,どのような遺産が残されているのかを一目瞭然で把握することができます。
このように”争続”にならなさそうなケースであっても,残される家族のために遺言を残しておくことは,実質的にも手続的にも大きな意義があるのです。
不公平型の遺言
「特定の相続人を優遇or冷遇する形で遺産を分けたい。」という意向を持つ方です。
例えば,被相続人と特定の相続人の間に,または相続人同士の間に感情的に相容れない事情があって,法定相続分では相続させたくないと考えているような場合です。この場合は,遺言を残しておかなければ目的を達成できません。
形式面でも,遺言を残しておけば,たとえ冷遇された相続人が反対意見を述べたとしても,他の相続人が独断で預金の払戻しや登記名義の変更が可能となります。
不公平型の相続を望まれる方は,基本的に遺言を残しておくことが必要不可欠です。
公正証書遺言と自筆証書遺言
公正証書遺言
公正証書遺言とは,公証人が公正証書の形式で作成する遺言です。
遺言者が公証人の面前で遺言の内容を口授し,公証人がその内容を文書にまとめて公正証書遺言として作成します。
当事務所では,基本的には公正証書遺言を推奨しています。
メリットとして,形式不備のおそれがないこと,家庭裁判所の検認がいらないこと,公証役場に保管されること,一定の社会的信用があることが理由です。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは,遺言者が,その全文(※),日付及び氏名を自書し,これに押印することによって成立する遺言です。
「自書」なので,ワープロやパソコンを使って作成することはできませんし,他人の代筆も認められません。このように,自筆証書遺言に厳格な形式要件が定められており,そのいずれかが欠けていれば遺言の効力は生じません。
※相続法改正により,全文自書の要件が緩和されました。
平成31年(2019年)1月からは,自筆証書遺言に相続財産の目録を添付する場合には,その目録のすべてのページに署名押印すれば自書する必要はなくなりました。
相続財産が多岐にわたる場合には,その全文自書は非常に労力がかかりましたが,法改正により配慮された形です。
自筆証書遺言のメリットとしては,公証人費用がかからないため費用が節約でき,容易に変更ができることです。
遺言作成にあたっての注意点
相続人への事前説明
遺言を使った相続を円滑に成功させるためには,なによりもまず相続人に対して事前に説明し,できるだけ全ての相続人に納得してもらえるように準備することが大事だと感じています。
遺言は,相手方の同意を必要とせずに効力が生じる単独行為ですが,やはり遺産配分を巡って各相続人の間でしこりが残る可能性があります。
相続人としては,被相続人が亡くなって初めて遺言に書かれている内容を知ったというのでは,不満や不信感を持ってしまいます。
事前にすべての相続人が納得できるような説明をした方がよいです。
「現在妻と住んでいる自宅不動産は妻に相続させる。長男Aには会社を引き継いでもらいたいから自社株をすべて相続させる。その代わり,妻が亡くなるまで生活面・経済面でしっかりと面倒を見てもらいたい。長女Bには預貯金を相続させるので,孫のために使ってほしい。」など,しこりや不信感を残さないための十分な事前説明が必要だと思います。
当事務所では,ご依頼があれば相続人の方への説明の場に立ち会って,亡くなられた後の手続きや遺言の内容のことについて,法律的な観点から相続人の方に対して説明を致します。
遺言能力の確認
遺言が有効であるためには,遺言者が,遺言内容及びその法律効果を理解判断するのに必要な能力を備えていること(※)が必要とされます。
平たく言えば,認知症が進行している場合には,遺言能力がないとして遺言が無効になる可能瑛があるということです。
これから自発的に遺言を作成しようとされている方にとってはあまり関係のない概念かもしれません。
一方,認知症が進んだ方の遺言作成を考えておられる相続人の方は,遺言者が遺言能力を備えているかどうかに注意しなければなりません。
※遺言能力の判断基準
遺言能力の有無は,「遺言の内容,遺言者の年齢,病状を含む心身の状況及び健康状態とその推移,発病時と遺言時の時間的間隔,遺言時とその前後の言動及び健康状態,日ごろの遺言についての意向,遺言者と受遺者の関係,前の遺言の有無,前の遺言を変更する動機・事情の有無等」を総合的に判断するとされています(東京地裁平成16年7月7日判決)。
このようなケースで遺言作成を考えておられる方は,遺言能力の有無を確認し,有るとすればそのことを証拠として残しておかなければならないので,一度専門家へご相談ください。