​婚約破棄と損害賠償|橋本あれふ法律事務所

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婚約破棄と慰謝料

Question
 結婚を前提にお付き合いしていた彼から,結婚の約束はなかったことにしてほしいと言われました。結納はしていないし,婚約指輪ももらっていないのですが,この状況でも慰謝料請求はできるのでしょうか?

婚約破棄

Answer
 婚約とは,将来婚姻するという当事者間の予約のことをいい,現在ではこれは適法で有効な契約であるとされています。
 そのため,婚約が成立していた場合において,一方が正当理由なく婚約を破棄した場合には,債務不履行又は不法行為による損害賠償請求の対象となります。

婚約の成立

婚約成立の要件

 婚約の成立には,将来夫婦になることについての合意があればよく,結納や仮祝言などの慣習上の行為や,同棲を行う必要はなく,また,両親や兄弟などに婚約の事実を告げる必要もないとされています。

 ただし,実務上は,①外部へ婚約を表示していたか否か(両親への報告等),②結婚に向けた具体的な行動を伴っていたか否か(結納,結婚式場の下見等)が重要視され,これらの証拠がなければ裁判上婚約の成立を証明できない場合があります。

※婚約が認められた事例
 東京地裁平成15年7月9日判決は,次の事実を認定したうえで,婚約成立を認め,慰謝料100万円を認めました。

・X(女性)は,25歳から30歳までの約5年間にわたって Y(男性)と交際していたこと
・Xが真剣に交際していたこと
・婚姻届まで作成していたこと
・Xが家族に紹介済みであったこと
・XとYが何度か一緒にウェディングフェアや住宅展示場を訪れていたこと

 逆に,口頭での結婚の約束にとどまる場合や,メールやLINEでの簡単な約束だけでは,真摯な婚約の意思があったとは認められず,婚約が不成立とされる可能性があります。

婚約を立証する証拠

 婚約破棄を理由に慰謝料を請求すると,相手方から,「婚約していない」と反論されるケースが多くあります。そのため,婚約が成立していたと言えるための証拠収集が必要となってきます。

 婚約成立を証明するためには,次のような証拠があれば理想的です。

  1. 婚約指輪や結婚指輪
  2. 結婚式の申し込みに関する資料や式場とのやり取りのメール等
  3. 結婚式費用の領収書
  4. 結婚式の招待状
  5. 新婚旅行の申込書,領収書
  6. 親族の証言
婚約の証拠

婚約破棄が認められる正当な理由とは?

 法律上では,婚約とは婚姻の予約契約と考えられ,婚約した男女は将来に向けてお互いに努力する義務を負います。もし相手方の帰責事由によって婚姻ができないような状況になった場合,相手方は婚姻ができなくなったことに対して債務不履行の責任が生じます。

 他方,相手方に帰責事由がない場合には,債務不履行に基づく損害賠償責任は生じません。いわば,正当な婚約破棄といえる場合には,損害賠償責任は生じません。

不当な婚約破棄
・相手が被差別部落出身者であることを理由とする破棄
・相手が朝鮮籍であることを理由とする破棄
・相手がカトリック教徒であり,これを改宗しないこと理由とする破棄
・性格の不一致を理由とする破棄
・自分の両親が結婚に反対したことを理由とする破棄
正当な婚約破棄
・相手の浮気,虐待,暴力を理由とする破棄
・相手が結婚式間近に行方をくらませて挙式を不可能にしたことを理由とする破棄
・相手の体質や持病等から,夫婦生活が困難であることが判明した場合の破棄

損害賠償の額

 婚約破棄による損害賠償の内容は,【財産的損害】と【精神的損害】の2種類に分けられます。

財産的損害とは?

 財産的損害とは,結婚に向けた準備を進めるなかでかかった費用のことです。

 例えば,婚約破棄によりかかった式場のキャンセル料,新婚旅行のキャンセル料,結婚指輪の購入費,新居購入費などが挙げられます。

精神的損害とは?

 精神的損害とは,慰謝料のことです。

 金額については,おおむね100万円以内に収まっていますが,破棄に至った事情がひどく,相手の被った精神的損害がきわめて大きいと認められる場合には,高額の慰謝料が認められています。

慰謝料算定額のポイント
・破棄に至った経緯
・破棄した際の婚約の段階(挙式直前はどうかなど)
・婚約成立までの期間の長短
・婚前交渉の有無
・当事者双方の年齢
・社会的地位
・双方の家族の関わり合い
婚約慰謝料

 婚約成立が認められ,また慰謝料額が高額になった裁判例として,次のようなものがあります。

東京地裁平成24年1月27日判決

事案の概要

 婚約を不当破棄された女性(X)が,男性(Y1)とその交際相手(Y2)に対し,共同不法行為に基づき慰謝料を請求したところ,男性に対しては270万の慰謝料が認められたが,交際相手との共同不法行為は否定された。

裁判所の判断

1. 婚約の成否と不法行為

  • XとY1は,平成17年2月頃から交際を始め,同棲を始めた。Xは一度目の妊娠をしたが中絶し,平成20年6月に再び妊娠した。
  • Xは今度は子を産むこととし,先の妊娠中絶の際の約束どおりY1との間で結婚することを約束したが,入籍は先にすることを合意した。
  • XとY1はその後も同居生活を続け,生活費の大半をXが稼いでいた。
  • Xは平成20年8月26日に交付を受けた母子健康手帳の「母(妊婦)」欄に「甲山X」と記載した。
  • Xは平成21年○月○日被告Y1との子であるAを出産した。

 これらの事実を総合すると,XとY1との間に平成20年6月頃婚姻予約が成立したものと認められる。

2. Xの損害

  • Xは婚姻予約成立後も引き続き同居してY1との生活費の大半を稼ぎ,Y1の格闘家としての生活を支えてきた。
  • Xは婚姻予約中にY1との間に長男Aをもうけた。
  • しかるに,Y1は平成20年9月3日に婚姻予約を一方的に破棄し,その20日後に別の女性Y2との婚姻の届出をした。

 これらの事情を総合勘案すると,原告は,婚姻予約後,被告Y1との間で,実質的には内縁に近い関係を築いてきたのに,被告Y1により婚姻予約を一方的に破棄されたのであって,その精神的苦痛は多大であるといえるから,これを慰謝するには270万円が相当である。

3. Y2の共同不法行為の成否について

 Y2が平成20年8月頃Y1と知り合って交際してきた行為は,Y2がその当時Y1とXとの婚姻予約を知っていたという特段の事情のない限り,Xに対する不法行為を構成するものはない。

 本件においては,①Y1はY2に対しX及びその間の子の存在を隠していたこと,②婚姻予約は関係者には秘密にされていたことから,Y2がXとY1との婚姻予約を知っていたことを認めるに足りる事情ないし証拠はない。

慰謝料が高額となった理由

  • 交際期間が長期間であった
  • 妊娠中絶,出産を繰り返していた
  • 同居し,生活費をねん出していた
  • 他の女性と浮気をし,結婚した

第三者への損害賠償請求

 第三者が原因で婚約を破棄された場合には,当該第三者に対して,不法行為に基づく損害倍賞請求をすることも可能です。

相手の親に対する損害賠償請求

 例えば,婚約が成立した後に,婚約者の親が(結婚することに)反対するケースも多いです。親が婚約破棄を推奨したという状況です。
 親に慰謝料の損害賠償請求が生じることもありえますが,単に反対したこと自体では慰謝料の責任は生じません。婚姻を妨げる具体的な行動を起こした等の特段の事情が必要となります。

浮気相手に対する損害賠償請求

 また,婚約相手が浮気をして婚約破棄に至ったという場合には,浮気相手に対して損害賠償請求することも考えられます。もっとも,この場合には,浮気相手が婚約の事実を知っていたという特段の事情がなければ認められません(上記東京地判平成24年1月27日)。