離婚と親権者の定め
1 親権とは
⑴ 親権
親権とは,未成年の子どもが一人前の社会人になれるように監護教育するとともに,その財産を維持管理するために,その父母に認められた権利及び義務のことをいいます。
親権の内容は,大きく次の2つに分けることができます。
子どもを監護教育する権利義務
子どもの財産を管理処分する権利義務
⑵ 監護権
親権の中でも,子どもの身体上の監護保護をする権利義務のことを特に監護権といいます。分かりやすくいえば,子どもと同居し,日常生活の面倒を見る権利義務と考えれば良いでしょう。
夫婦が別居又は離婚して離れて暮らしている場合,子どもと同居している親を「監護親」,同居していない親を「非監護親」と呼んでいます。
2 離婚手続と親権者の定め
⑴ 親権者指定の必要性
婚姻期間中は夫婦共同親権ですが,離婚後はいずれか一方の親による単独親権となります(民法819条1号)。
そのため,どちらを親権者とするのかを定めなければ離婚することができません。
協議離婚しようとする場合,親権者について争いがないのであれば,離婚届の親権者記入欄にいずれかの親の氏名を記載して提出すれば問題ありません。
しかし,親権者について争いがある場合は,たとえ離婚自体に合意していたとしても協議離婚はできないので(親権者記入欄が空欄のままでは,離婚届は受理されません),調停・審判・裁判で親権者を定めて離婚するほかありません。
⑵ 調停段階での親権者指定
離婚調停において,離婚の合意はできたが親権者指定の合意ができない場合には,以下の方法をとることができます。
離婚事件全部につき調停に代わる審判(家事手続284条)をする方法
調停不成立とし,人事訴訟による解決にゆだねる方法
離婚についてのみ合意を成立させ,親権者の指定については別途調停又は審判の申立てをする旨の調書の記載をし,全体として離婚調停を成立させる方法
離婚についてのみ合意を成立させ,親権者の指定については合意不成立として,当然に審判移行(家事手続272条4号)させる方法
離婚を急ぐ合理的な理由がある場合は,3・4の方法により離婚の効力を生じさせることができますが,離婚の効力が生じてから親権者が定まるまでの間にタイムラグが生じてしまいます。
子どものことを考えるのであれば,離婚と同時に親権者を定めることが理想であり,原則的には1・2の方法によるべきでしょう。
3 親権者指定の判断基準
⑴ 基本的な考え方
親権者を指定する際の基準は,「子の利益」に合致することであり,父母側の事情と子の側の事情などを比較衡量しながら決定されるべきものとされています。
父母側の事情
監護能力,精神的・経済的家庭環境,居住・教育環境,子に対する愛情の度合い,従来の監護状況,実家の資産,親族の援助の可能性など子の側の事情
年齢,性別,心身の発育状況,従来の環境への適応状況,環境の変化への適応性,子の意向,父母及び親族との結びつきなど
⑵ 重視される事情
現状の尊重
子の虐待が認められるなど,現在の子の監護状況に特段の問題があるケースでない限り,現在子を監護している親権者が引き続き監護すべきであるという考え方です。
ただし,これに合致する状況を作出しようと,実力行使による子の奪い合いを招きかねませんので,監護するに至った経緯も当然ながら考慮されます。母親の優先
乳幼児については,特別の事情がない限り,母親の監護養育が優先されるべきであるという考え方です。
ただし,子の監護における父母の役割は変化しており,安易な一般化は許されないとも指摘されています。子の意思の尊重
できるだけ子の意思は尊重されるべきであるという考え方です。
ただし,子の意思を考慮する以上子に分別能力が備わっていることが前提となり,子どもが低年齢の場合は適用しがたい考え方です。兄弟姉妹の不分離 兄弟姉妹は可能な限り同一人によって監護されるべきであるという考え方です。
もっとも,子の年齢が上がるに連れて,この基準は後退していくといわれており,15歳の長女の親権者を父,12歳の長男の親権者を母に指定した裁判例もあります(東京高判昭和63年4月25日)。
4 親権者の変更
⑴ 変更の手続き
離婚後の親権者の変更は,調停又は審判によらなければなりません。
そのため,たとえ父母間で親権者の変更に合意していたとしても,調停又は審判を申し立てる必要があります。
⑵ 親権者変更の判断基準
このときの判断基準は,おおむね上記「3 親権者指定の判断基準」であげた事項と重複します。